老人とプログレ

介護施設での現場のお話。プログレ、ハードロック等の音楽話。・・その他、日々の雑記、ファイターズの話題等・・

初老の介護施設管理者。経過観察&ぼやき To be a ROCK! Not to ROLL!

太陽と戦慄(Larks' Tongues in Aspic)

 

 

 傑作です。

【制作の背景】

 

 1973年発表。前ラインナップのクリムゾンは72年の3月でスケジュール終了により解散。フリップ社長も疲れたのでしょう、言うこと聞かないメンバーを引き連れてのツアーで、心身ともに消耗。(暴走ぶりは「アースバウンド」に収録。全員ヤケクソ。)部下が自分と違う方向が向いているのはたとえ成功していても・・中小企業の社長は辛いもの。そして傷心の中、宗教にハマります。日本もイギリスも中小企業経営者は同じですね。しかし、ここはイギリス人。稲盛会長も斎藤一人もいないので、「ワリ・エムラーク」という白魔術の魔女と行動を共にします(色々調べましたが、正体不明の人。何者なんでしょう?)。

 ここでどのような示唆を受けたかわかりませんが、フリップ社長は新たな人事編成に向けて精力的に活動を開始。約3ヶ月で自分の意図を具現化できる優秀なスタッフを揃えます(仕事人から、やる気のある新人。鉄砲玉まで。)

 

【メンバー】

ロバート・フリップ   ギター、メロトロン

  今までも高速のクロスピッキングは披露していましたが、本格的にテクニシャン

 と認められたのはこのアルバムからでは? そしてリーダーとしてのカリスマ性も

 も本格的に確立。

ジョン・ウェットン   ベース、リードヴォーカル

  この前は「ファミリー」に在籍。好盤2枚を残し、クリムゾンに移籍。フリップ先

  生とは同郷。満を辞しての投入。西武の清原が念願叶って巨人にトレードといった

  ところでしょうか?清原は失敗しましたが、ウェットンは大正解。業界屈指のヴォ

  ーカリスト。そしてワイルドなベースプレイは魅力的。

デヴィッド・クロス   ヴァイオリン メロトロン

  繊細そうな当時は新人。でもデビューにあたって新調した衣装は派手。弾きまくるスタイルではない、

  この人をメンバーに入れたのは慧眼。いなかったら全員暴走して恐ろしいことになっていたのでは・・

ビル・ブラッフォード  ドラムス

  エスからの引き抜き。当時絶頂期だったイエスからの脱退は衝撃だったのでしょう。当時のプレスの

   記事は否定的な見解が見られます。しかし、金より新たな冒険を選びクリムゾンへ!理想に燃える若

   頭。独特のタイム感と頭脳的なアプローチはプログレドラムのフォーミュラー 

ジェイミー・ミューア  パーカッション、ドラムス

  フリージャズシーンからの参加。テクニシャンなのはもちろんですが、それ以上に挙動不審。ほとん

   ど、タイガー・ジェット・シン!当時のライヴのレビューを見ると「毛皮をまといながら、一瞬足り

   とも動きを止めず、鎖を振り回して、最後は血を吐く!」と、おおよそミュージシャンの解説とは思

   えませんが、残された映像を見ると、まさしくその通り!各自Youtubeを検索! この当時のクリム

   ゾンの推進力はこの人。

 

さて、メンバーも揃いリハーサル開始。「アースバウンド」のツアー中には「太陽と戦慄Part2」の断片はできていたという情報もあり、この時点でフリップ先生もやる方向は明確になっていたんでしょう。

 途中、フリップとEGレコードの同僚。ブライアン・イーノとのコラボを挟みます。(72年9月〜)ここでの活動もクリムゾン本体にフィード・バック。このレコーディングはクリムゾンのライブのSEとしても使用されています。

明けて73年〜録音開始。録音中にも単発的にライヴを行なっていましたが、ここでジェイミー・ミューアが脱退。結果、このラインナップでの録音は最後となってしまいました。

 

【1973年】 

「太陽と戦慄」の発表は73年の3月。

日本は田中角栄。アメリカはニクソン大統領が元首。ベトナム戦争終結

金大中事件で韓国は軍政の真っ最中。日本赤軍のハイジャックとオイルショックが本格化。オイルショックは音楽産業にも影響を与えていきます。

73年のアルバムといえば、

ピンク・フロイド       狂気

マイク・オールドフィールド  チューブラ・ベルズ 

レッド・ツェッペリン     聖なる館

エス            海洋地経学の物語

ブラック・サバス       血まみれの安息日

マハビシュヌ・オーケストラ  火の鳥

ハービー・ハンコック     ヘッド・ハンターズ

 

  そしてクィーン、キッス、エアロスミスがデビュー。素晴らしすぎますが、オイルショックでレコード業界も経営体質見直し。この年をピークにプログレは衰退。より売れるものを作ろうと産業化していきます。

 

ちなみに日本では、桜田淳子がデビュー。アイドル歌謡の時代がやってきます。で、私。桜田淳子、大ファンだったんですが、今となっては何で好きだったんだか理由もよくわかりませんが、超のつく美人に見えてました。

 そして沢田研二が「危険な二人」で歌謡大賞受賞。お茶の間で井上尭之バンドが見れるようになります。

 

 映画は

エクソシスト

燃えよドラゴン

ジャッカルの日

スティング

仁義なき戦い

 

巨人がV9  相撲は北の湖と輪島2強時代。日本プロレスが消滅し、新日本プロレス坂口征二が合流。猪木がタイガー・ジェット・シンと抗争開始。

 

素晴らしすぎます。1973年!

 

【タイトル】

意味ありげなタイトルはジェイミー・ミューア発案らいしいですが、どうやら中国の宮廷料理らしいと・・「ひばりの舌のゼリー寄せ」らしいですが、画像検索しても料理の実物は見当たりませんでした。それで何故この邦題かというと、ジャケからくるイメージだったらしいのですが、担当の人、ナイス邦題!「対自核」「淫力魔人」と並ぶ、3大邦題と個人的に思っています。

【曲目】

1 太陽と戦慄Part1

(Larks' Tongues in Aspic, Part One)

Larks' Tongues In Aspic, Pt. 1

Larks' Tongues In Aspic, Pt. 1

 

ガムランチック導入部から静かに始まり、ヴァイオリンのリフから7拍子の超絶ヘヴィーロックへ。そしてフリップ先生の高速クロスピッキングを合図に、7/8拍子のジャズロックパートへ! かっけぇ〜! 最高なシーンが一瞬でもあれば映画は名作と言われますが、それと同じ。ヘヴィーロックパートから7/8までのスリリングの展開はロック史に残る名演奏。一旦ブレイク後は、ジェイミー・ミューア大暴れの巻。このパートの完コピは無理でしょう。ミューア以上に解らないのがジョン・ウェットンのワウ・ファズかましたベースプレイ。混沌のうちに収束し、ヴァイオリンをフィューチャーした静的なパートへ。クロスのプレイはテクニック的にはちょっと・・という意見は良く耳にしますが、叙情感を漂わせながらも、クサくならないプレイがフリップ先生のお眼鏡にかなったのでは。そして、テーマリフをギターに置き換えて壮大なコーダへ。ウェットンのファズベースが大地を揺るがします。 

 

2 土曜日の本

(Book of Saturday) 

Book of Saturday

Book of Saturday

 うって変わって、フリップ、クロス、ウェットンによる、室内楽のような小品。ここでウェットンのヴォーカル、クリムゾン初お目見えです。良い声してますね〜生まれ変われるならウェットンの声で生まれ変わりたいです。

 ブラッフォードは「不参加」という名の参加。抑制が効いた名曲です。間奏のヴァイオリンソロはクロス一世一代の名演。泣かせます。

 このノーブルな雰囲気は、やはりヨーロッパ人という感じですね。日本人じゃ、こうはならない。ヴァイオリン入ってるアコースティックな曲といえば「神田川」か「精霊流し」ですもんね。

 

3 放浪者

(Exiles)

Exiles

Exiles

 エグザイルです。踊れませんが。

 このアルバムで唯一のメジャーキー。お子様に聞かせて良いのはこの曲だけ。

 シンプルなメロディーが心に沁みる雄大なナンバー。クロスのヴァイオリンソロも良いですが、ポイントはブラッフォードのドラム。言葉にしづらいですが、スネアの位置がストっと落ちるといいますか、情緒に流されず抑制が効いた好プレイ。 

 

4 イージーマネー

(Easy Money)

Easy Money

Easy Money

 刹那的な歌詞も印象に残る、ハードなナンバー。地味にファンクの影響も・・

インスト曲でも大暴れだった、ジェイミー・ミューアにスペースを与え、鐘や太鼓に笛、果ては雑巾から笑い袋まで、音が鳴るものなら何でも投入するエキセントリックなプレイを展開しています。本当はこの方向でのインプロ拡大をフリップ先生は考えていたのでしょうが、ミューアの脱退で夢と消えてしまいます。

 多分、このアルバムの中で、一番ライヴ向きで、ヘヴィーメタリックな感覚を与える曲。後のライヴ盤「USA」でも、客から1曲め終わったばかりなのに「EASY MONEY  !!」と催促されてます。

5 トーキング・ドラム

(The Talking Drum)

 

The Talking Drum

The Talking Drum

 前曲の笑い袋の音からクロスフェード。文字通りトーキングドラムの音から始まる、4拍子のインプロナンバー。静かな立ち上がりから先発はクロスのソロ。徐々に音量が上がりフリップの怒涛のソロに突入。フリップトーンはここに確立。

 そしてギアを最大にあげてエンディングに突入!音量はマックス。突如カットアウトしてヴァイオリンが悲鳴をあげながら次の曲へ・・

 

6 太陽と戦慄 PART2

Larks' Tongues In Aspic, Pt. 1

Larks' Tongues In Aspic, Pt. 1

 

フリップのソリッドでハードなリフでカットイン!格好良すぎ。

このラインナップで最初にリハーサルをした曲らしく、ここでは余裕のプレイ。

多分、意識してるのはバルトークストラヴィンスキーのロック的な展開。基本5/4のプレイですが、半端に拍が入るところはバルトークの黄金律とか関係しているのかも。

コードの上昇と下降を繰り返す展開部は高揚します。で、その後数多くのフォロワーにパクられる羽目に・・・というぐらい、この時期のクリムゾンを凝縮したようなナンバー。

 ちなみですが、当時のフールズ・メイトの編集長、北村氏の著作では、この曲のテーマは「性行為!」言い切ってました。そんな発言フリップしているんでしょうか?でもそんな気もします。

 ともあれ、このアルバム全て名曲揃いですが、これ1曲でも十分。重ねて言いますが「かっこよ過ぎ!」 意図的にギターソロを入れていないのもスタイリッシュ!

 

【評価】

 問題作というのは、リアルタイムでは評価されない傾向がありますが、これはリアルタイムでも評価が高かったようで、日本でも朝日新聞の文化欄で激賞だったそう。当時のロック、ポップシーンからは、あまりにもかけ離れている内容にも関わらず。

 これはフリップの戦略もあるのでしょうが、多分意図したのは「分かり易い前衛」。先ほどバルトークの名前を出しましたが、全体のイメージ作りには、きっとストラヴィンスキーの「春の祭典」があったに違いありません。 親し見易さのかけらもないショッキングな音なのに、感覚的に理解できてしまうというか、ドライでスタイリッシュな格好良さ!しかも知的で正体不明。よくぞ商業音楽のフォーマットの中でこれだけの物を作ったと思います。(しかも、そこそこ売れた!!)

 このアルバムがあったからこそ、他のプログレバンドとは志が違うと思われているのでしょう。特に日本では神格化。フリップは先生とか師匠とか尊師とか言われるようになります。

 

 とここまで褒めたアルバムの弱点といえば、ここでの収録曲。のちのライヴでどんどんとパワーアップした演奏が披露されたこと。「戦慄」のテイクは霞んでいく羽目に・・・

 

 ライヴを重ねるごとに、バンドはパワーアップ。通常のスタジオ作業では収まらなくなり、次回作はライヴ録音をベースにスタジオでのオーバーダブを重ねる荒技に出ます。そして、またまたとんでもない作品が・・・

 

 

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